相変わらず
手の院からの急な呼び出し案件を片付け、ダンはウィンダスの街に戻ってきた。
たまたまウィンダスにいた。間が悪かった。
機械の暴走だか何だかで、明け方に叩き起された。
朝食には行けないとトミーにだけ伝え、レンタルハウスを出た。
時間はすでに正午に近い。
トミーは、ロエとともにジュノに着いている頃だろう。
トミーはチョコボに乗れるようになり、行動範囲がぐっと広がった。
――が、方向音痴はどうにもならない。
結局、誰かしらが帯同している。
飛空艇にでも乗れるようになれば話は別なのだろうが、まだ当分先のことだ。
陽の光を受けて、水が流れ輝く。
レンタルハウスを目指して突き進んでいると、傍らに賑わい。
街の一角に仮設の店がいくつも並び、楽団が陽気に奏でる。
賑わいはジュノの競売前と似ていたが、そこにいる多くは冒険者ではなく街の人間。
祭りの類いだろうか。
横目に眺めながら歩く。
賑わいの傍らで輪になっている一団。
その中心にいた者が、はたと背筋を伸ばした。
周りの者を押し退け、輪から出てくる。
三角の耳元には大きな花。
羽織りの下で、衣の飾りがチャラチャラと鳴る。
真っ直ぐに、歩いてくる。
ダンは一瞬眉を寄せたが、立ち止まる。
肩を怒らせズンズン歩いてくるその姿には見覚えがあった。
その、不機嫌な顔のミスラには。
うんざりした顔で迎えると、彼女は指差し言った。
「トン!!」
「それは混ざってんのか。それとも偶然か?」
冷たく言い放つ。
「はあ? また意味分かんないこと言ってんじゃねぇわよ」
相変わらずの好戦的な声がただちに打ち返す。
それとなく、周りの人々の視線が集まる。
仁王立ちするミスラは、化粧をしていた。
飾られた髪と首周り。
羽織りの下は華やかな装飾の娯楽着。
彼女の美しい曲線を、ミスラの少女達が、羨ましげに眺めている。
店先の男達も見ている。だが、気付かれぬように。
彼女と相変わらずのやり取りを交わしたダンは、興味なさげに呟く。
「……お前にも役立てる場所があるんだな」
怪訝な顔で、彼女はダンの視線の先を見る。
先ほど自分を囲んでいた人々から、緊張の眼差し。
そんな怖そうな人と揉めないでくださいね。
そんな顔を揃えている。
「別に。頼まれた服着て人前で歩くだけよ」
涼しげに見やって、手を払うミスラ。
そして、キョロキョロと周囲を見回した。
「あの子は? いないの?」
言ってから、一瞬固まる。
少し慌てたように腕組みして続ける。
「ほら、首長とか。ちっちゃいのとか」
まったく何一つ覚えていないのだなと。
思わず半眼になる。
しかし次の瞬間、胸の奥がざわついた。
一瞬背中から湧き上がったものを、即座に押し戻す。
ひと月前。
自分に話すパリスの声を手繰り寄せ、思い起こす。
彼女が持ちうる情報の線引きをした。
「今朝まではトミー達もウィンダスにいたが、もういない」
何となく落ち着かない様子の彼女は、賑わいを眺めたまま『ふーん』と鼻を鳴らす。
ちらりとダンを盗み見る。
当然気付き、視線で問う。
一瞬、躊躇うような間を置いて、
「……あの子、元気にしてんの?」
不安の上に不機嫌を塗りたくった顔。
ぱたりと動かした耳で、飾りが煌めく。
「……ああ」
それだけ答えて、ダンは目を逸らした。
「あいつも、相変わらずだ」
用がないならもう行く。
彼女を避け、止めていた足を踏み出す。
ちょうど、賑わいの中から人が走り寄ってくる。
「ミアさん! そろそろ準備しないと……」
潜めた声で言いにくそうに告げる。
それを耳にしたダンが『は?』という目でミスラを見やる。
しかめる女の顔。
「何よ。なんだっていいでしょ!?」
良くねぇだろ。
内心返すが、口にはしなかった。
つんとあちらも背を向けて、賑わいの中に戻る。
安堵した顔で出迎えた人々に促され、人混みの奥へ消えていく。
ダンはその背を見送り、踵を返した。
喧騒を離れ、レンタルハウスに戻った。
緑の匂いに包まれた、ウィンダスの冒険者居住区。
ドアを押し開けると、中から声が飛ぶ。
「ご主人!おかえりなさいクポ〜!」
妙に明るいその声に、視線を上げる。
何がそんなに嬉しいのかと思ったが、すぐに理由は分かった。
見覚えのない食事が、テーブルに置かれていた。
あとがき
スピンオフ『相変わらず』でした。恐らく『交渉権』の翌日の出来事です。
変わらない奴は、一人じゃなかったよって話ですね。
少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。