青と失名氏

第三章 第八話
2006/03/29公開



二杯目の紅茶が入れ終わってしまった。
トミーは紅茶を乗せたお盆をそっと持ち上げ、自分が戻ってきたことを一足早く知らせるために、小さな声で『よいしょ』と呟いてからキッチンを出る。

テーブルに近付くまではお盆に乗せた二つのティーカップをじっと見下ろしたまま歩く。
泣き止みかけた喉の引きつる音に、トミーは小さく安堵した。
トミーはお盆をテーブル脇に置き、そっと彼女へ視線を向ける。

……あ~~う~~わ~~~…。

残念ながら、ロエはまだまだ泣き止んでいなかった。

断片的にではあるが、涙の理由は聞いた。
少し彼女が落ち着く時間を取ろうと、トミーは何も言わずキッチンへ下がり、紅茶を入れ直した。
しかし戻ってきてみればこの状態。結局、何も変わっていなかった。

ロエのタルタル族特有の鼻の頭は赤くなり、瞳は涙でキラキラとしていた。
その姿が可愛らしいとも思ったが、そんなことを呑気に思っていられるような状況でもない。

トミーはそっとロエの前にティーカップを置き、自分は向かいの椅子に腰掛けた。
紅茶をテーブルに下ろし、お盆を横に避けると、一息ついて彼女の言葉を待つ。
その間、自分がこれまでに聞いた話を頭の中で整理しようと努めた。
しかし、話はあまりにも断片的で、よく分からない。
けれど、頭に浮かぶ“あの男”の姿に、自然と眉間に皺が寄る。口元が硬くなる。

すると突然、ロエが喉を引きつらせながらぽつりと呟いた。


「…………駄目です……」

思っていたよりも早く口を開いたことに、トミーはすぐに顔を上げた。

「駄目なんです私…っ……本当に、全然駄目で……」

「むぅ……」

ロエはテーブルの下で小さな手をぎゅっと握りしめたまま、視線を落としている。 トミーの表情が見る見るうちに険しくなっていく。

「ロエさんはダメなんかじゃないですっ。もぉ……ダンめ……何か酷いこと言ったんだなぁぁ~」

勝手に想像してトミーが唸りつつ歯噛みする。
この場にダンがいたら、たぶん『は?』とものすごく疲れた顔をするだろう。

「前…から思ってました……。ダンさんから、よく思われてないんじゃないかって……」

ジャグナーでの一件では、思わず彼を責め立ててしまった。
今日は指示を無視して、手を焼かせた。
彼はきっと、内心うんざりしている――。

そんな風に語るロエの目に、またじわじわと涙が溜まっていく。

彼の怒声を聞き慣れているトミーには、彼がロエを傷付けたのだとすぐに予想がついた。
内心で文句を言いつつ、ロエを慰めなければとトミーは口を開いた。

「そんなことな――」

「羨ましいです、トミーさんが」

「――ほっ?」

不意に真っ直ぐ飛んできた一言に、トミーは間抜けな声を出して瞬きを繰り返す。
ロエはより一層俯き、声を落として続けた。

「トミーさんと一緒にいる時、ダンさんはとても楽しそうです。私にはできません。ダンさんにあんな顔をさせることは……」

「あ、あんな顔? 私には怖い顔してばっかりですよぉ」

「違いますっ」

「う……お、怒らせてばかりですし」

「何を言うんですか、あんなに仲良しじゃないですか~」

トミーが恐る恐る返すと、ロエはぱっと顔を上げた。
その時の眼差しが真っ直ぐで、何か迫力に似たものを感じてトミーは思わず姿勢を正す。

「お二人とも、本当に仲が良くて……私――」

ロエはそこまで言ったところで、はたと言葉を止めた。
そして、酷く驚いた顔をすると、バッと自分の口を手で押さえる。




――あぁ……そっか。ロエさんは……。



途端に顔を真っ赤にして黙り込んでしまったロエを眺めて、トミーはぼんやりと考えた。
目の前で硬直している彼女を見ると、彼女自身も今この瞬間に気がついたというような様子。
とんでもないことをしてしまったとでも言うような顔をしているロエ。
それを見ていると、トミーの頭の中は、一気に冷めていくような感覚に包まれていった。

「……う~ん……確かに、仲が悪いわけじゃないかもですけど……。でも、ダンがロエさんのことを悪く思ってるなんてことは、ありませんよ~。絶対ッ」

何も言えず、むしろ何を言われてしまうのだろうと少々怯えさえ見て取れるロエに対してこう切り出した。

「逆に私は、ロエさんみたいにしっかりしてませんから、ダンの力になれません……。ダンがロエさんに頼ってる部分って、きっといくつもあると思いますよ?」

トミーはそう言いながら、小さく笑って見せた。

「もし何かキツイことを言われたとしても、あんまり気にしないでください。ダンは、私にだって、パリスさんにだって……誰にだって口が悪いんですから!」

そう言うトミーの心に、重く苦しい何かがじわりと滲んだ。
なぜだか、どんなに頑張っても困ったような笑みしか作れない。
それでも懸命にロエを励まそうと捲くし立てながら、ふとダンの姿が脳裏に浮かぶ。

心の中で何度かその名を呼んだ。

けれど、想像の中の彼は、いつもの気難しげな顔で、ただじっと、どこか遠くを見つめているだけだった。



   *   *   *



ジュノの最上層、ル・ルデの庭。
国家機関が集まる白く荘厳な場所で、民間人の姿はほとんどない。

そんな場所にあるサンドリア大使館からダンが出てくる。

……ありゃぁ駄目だな……。

歩きながら振り返ったダンは、大使館の白壁に鋭い視線を向けて、肩をぐるりと回す。

サンドリア大使館にデルクフでのことを報告した。
だが、大使館の中はそれどころではないとでも言いたそうな雰囲気に満たされていた。
奥の方が慌しく、受付にいた者もどこか落ち着かない様子でダンの報告を聞いていた。
要人が動く前の空気――そんな気配が、どこかにあった。

大使館が暇ではないことくらいダンも心得ている。
しかし今回のことはさすがに、しっかり対応してもらいたい。
ミッションの報告とは違う。――犯罪だ。

後日改めて報告しに来た方がいい。
そう判断して、自分のレンタルハウスまで戻ることにした。

しなければならないこと、考えなければならないことがあり過ぎる。
寄ったきりの眉間のしわを意識して舌打ちしつつ、冒険者の居住区通路を歩く。

ダンはひとまず落ち着いて状況を整理しようと、自分のレンタルハウスのドアを開けた。
溜め息をつきながら足元に落としていた視線を上げる――部屋の中に来客がいた。

「おかえりダ~リン☆」

ベッドの上に寝転がって自分の髪で遊んでいる男がダンを振り返って笑顔になる。

ロ-ディは、そのさらさらの金髪を二つ結いにした頭で首を傾げてみせる。
『ただいまのチューは?』とか何とか言う彼の言葉を背中に聞きながら、ダンは無言のままドアを閉めた。


重い装備品を取り外しながらテーブルに歩み寄りつつ室内を見ると、モーグリはこの変態から逃亡したようだ。
姿が見えない。
賢明な行動だとモーグリを評価し、ダンは盾をテーブルの上にごとりと置いた。

こちらの興味を引こうと色々やっている変態を無視し続けるダンに、ローディは逆にご満悦のよう。
嬉しそうに独特の笑い声を発しながらベッドの上に寝転んで頬杖を付いた。

「きひっ、ねぇねぇあの後どぅなった?どぅーなった?」

好奇心一色のその問いに対し、ダンは途端に鋭い視線を横目に送る。
腰からはずした剣をテーブルの上にがんと置いてローディに向き直った。

「……お前は、何を知ってる?」

「な~んにも、知らにゃいにょん♪」

即答したローディを凝視すると、ダンはゆっくりと椅子に腰を下ろした。
テーブルに肘を着いて険しい視線を足元に落とすダン。
そんな重苦しい空気を感じ取るどころか、変態は声のオクターブを上げる。

「きひひひっ、ダン変なの! もっと問い詰めてよ。激しさが足りないぞぇ☆」

「......……」

「にゃっは~静かにテンパッてるのぅ! ダンてばテンパッてる!? 略して『ダンパッてる』!!!」

「どうしてお前があの場にいた?」

「その痛烈な無視加減がさらにMOE☆」

結うほどの充分な長さがない二つ結いされたローディの頭は、暴れれば暴れるほどその艶やかさ故にほつれていく。
今の段階ですでにわけの分からない髪形になっている彼は、気色悪い可愛さのある顔をして口を尖らせると言った。

「みゅ~ん、違うんだよぉ~ダン聞いてよぉ~。折角俺様がダンとのデート放棄してまで行ってやったのにさぁ~、契約相手が遅刻! 二流のくせに生意気だから、またすぐに戻ったのらー」

パーティ離脱と同時に、仲間の尾行者たちを引き上げ、皆現地に集合させた。
だから戻ってからは自分でダンのことを探したのだと言う。

「チッ……やっぱり仲間連れてたんじゃねぇか」

ローディの言う『現地』が何処なのか、又、変態とその仲間達が一体何をしているのか、次から次へとダンの中に疑問が湧き出る。
だが、何よりもダンにとって問題だったのは――
変態が自分達と別れると同時に、付けていた仲間を引き上げさせたことだった。

思考を表情に表すダンを尻目に、ローディはそのまま説明を続ける。

探した末、ダンよりも先にトミーとパリスの姿を見つけたらしい。
とりあえず追ってみた結果――あの騒動に遭遇したのだと。

「きっひゃ~しかし面白かったぞぃ! あぁいう予想外の展開、大好き!!」

「待て、待てよオイ」

当時のことを思い返してうっとりと言う変態に、黙っていられなくなったダンが口を挟んだ。

「本当に...…そうなのか?……お前」

「ビックリしたなりよ。てっきり俺様、きゃつの狙いはダンだと思ってたからにゃ~♪」

「やっぱり気付いてたのか。エルヴァーンの男に」

ダンが椅子から身を起こすと、ローディは満面の笑みで頷いた。

「リンクシェルの方でも『何かいる』ってうるさかったのよ。最初はダンが俺様に何か仕組んでんのかにゃ~と思ってきゅんきゅんしてたんだけどのぅ。でもその内、俺様狙いじゃな~いって感じたのだ。んじゃあ、ダンだなぁと思ったなり☆」

ニヤニヤと頬を緩ませ、ドヤ顔で言い放つ。

「だから俺様、警告したじゃん? ダンに」

……つまり、ローディは『ダンがどこかで作った敵が、復讐に来たのだ』と思っていた。
期待すら抱きながら、面白がって眺めていたというわけだ。

「あぁ~ん! もしもあれがダン狙いだったら、助けて恩着せられたのにの~ぅ」

天井を見上げて人差し指を咥え、気持ちの悪い声を出す変態に、ダンは呆然と視線を投げた。
ゆっくりと視線を明後日の方向へ流し、力なく再び椅子に腰を下ろした。

額に手を当て、静かに、しかし必死に考える。
深く深く沈んでいくその様は、珍しいダンの姿だった。


「……俺も、そう思った」

「俺様に恩着せて欲しかった!!?」

「違う。 俺狙いだと思ってた」

「俺様はいつもダンをロックオンだぞぃ☆ ダン狙いなのは、俺様だけでいいの!」

「てめっ……もとはと言えば、お前が紛らわしいこと言うからじゃねぇか!クソッ」

「きひっ!」

「いや、『きひ』じゃねぇよ」

ダンは、ローディのように早い段階からエルヴァーンの男に気がついていたわけではなかった。
ただ、変態が帰る際に放った不可解な発言を聞き、何となく何者かの視線が向けられているように感じていた程度。

変態の捨て台詞を気にするあまりそんな気がしてしまうだけなのではとも思っていた。
だが仮に誰かが後をつけていたとしても、狙いは間違いなく自分だと信じて疑わなかった。

――今考えれば、何の根拠もない。

とにかく、まさかトミー狙いの者がいようとは――夢にも思わず。
あのときの無用心な油断が、今さらながらに腹立たしく、ダンは己への苛立ちを強く感じていた。

――もしも、パリスがいなかったら、どうなっていた?

あの正義感が導いた、無謀とも言えるあの背中が。
最後に自分が見た、彼女の姿になるところだったと?


はっきりと言える。

冗 談 じ ゃ な い 。


「ダ~ン~?」

そんなダンの胸中に踏み込むように、ローディが不思議そうな声で名を呼んだ。
眩暈を感じる頭を振り、かろうじて思考を現実へ引き戻す。

「…………あぁあ~……もう時間切れか」

唐突に、ローディが不機嫌そうにそう呟いた。
意味が分からず、ダンが眉をひそめる。

不意に部屋のドアがノックされた。

ぴくりと反応するダンをよそに、ローディはまるで自分の部屋かのように『入っちょー』とノックに答える。
ドアが開くと、がっちりと武装した髭面のヒュームの男が立っていた。
険しい表情の男が口を開く前に、ローディは不平を言う子どものように口を尖らせて言う。

「奴が動いたんでしょ? このままここで指揮するって言ったがのぅ」

「総帥」

「俺様、最近マジカルで本末転倒なんだよな~。遊ぶ暇な~い。プンプンッ」

「総帥」

「オブザーバーのことなら五から二十は飛べって言った。逃げようとしたって無駄だ。俺様、かくれんぼ大好きだもん☆ ダンも俺様から逃げようとしたって無駄だからにゃー。三日以内に見つけちゃうぞ♪」

勝手にペラペラと内輪ネタを話し出したかと思うと、急にダンへ話を振り、ばちりとウィンクする。
ダンは心底『何言ってんだコイツ』という表情を向けたが、ローディはその反応に満足げな笑みを浮かべ、ベッドの上にぴょんと飛び乗った。

「さっきからずっと五人がキてキてキてキて、うるさ~くて俺様メッチャモテモテ!! 悪いが俺様イくぞぇ。久々に大きな狩りの仕事があるのじゃーきっひひひひ」

「狩り?」

「だから超☆忙しいの! にゃ~にゃ~、ダンも一緒に遊ばない!?」

「総帥」

「おkおk、聞こえたっちゃ!二十分後にアタック仕掛けるぞぇ」

そう言いながらローディは、やんちゃな子どもが長靴でも履くような調子でベッドに座り、足を上げてブーツを履いた。
そしてリスニング不可能な多会話重複の言葉をぶつぶつと零しつつドアへと歩く。
外で待っていた髭面の男は、無言で半歩下がり、ローディのために道を開けた。


「ダンの方も忙しくなりそうだな、きっひっひ♪ 俺様の今日のお遊びは、神経衰弱なり! レッツどん☆


最高に上機嫌な声でそう言いながら、『あでゅ!』とローブの裾をなびかせ外へと駆け出て行った。
そしてローディの遠退いていく『キーーーンッ』という声が聞こえ、迎えに参じたヒュームの髭面男はドアを閉めてその後を追って行く。

――ドアを閉める前に一瞬、ダンのことをじっと凝視して。



   *   *   *



透き通った、どこまでも続いていて――終わりのない。
柔らかい、風の中のような、安心・不安のどちらも感じない。
静かで、胸に迫る美しさ。

……でも、何かが絶対的に足りないような。

何度包まれても、どう表現するのが的確なのか分からないその色。
もうずっと、長い間、その中に一人で佇んでいるような気がする。
自分が何処を見つめているのか分からない。
視界全体が同じ色に包まれているから。


――ハッと気づくと、自分の部屋に立ち尽くしていた。
周りを包んでいた青は消え、いつものレンタルハウスの中央にぽつんと一人。
部屋の時計に目をやり、針が指す時間を見て、トミーはゆっくりと息を吐いた。

……あ、見送り、行きそびれちゃった……。


ぼーっとしながらそう思った後、今日はあの男の見送りがあったのだと思い出す。
今まで幾度と無く世話になった彼が、遠くへ行くことになった。
だから皆で、賑やかに見送ろうと自分が言い出して、そう、彼に感謝と別れを告げる場を。

……こんな時間だもの、もうとっくに彼は行ってしまったよね。

「あぁあ……あぁ~あ~……残念っ」

足元に視線を落とし、子どもじみた強がるような口調で独りごちたら、ぽろりと涙が零れた。
にこと笑っていた口元が歪み、視界が涙でぼやけていく過程。

口から泣き声が漏れ出しそうだと感じた時、ふと耳に誰かの声が届いた。
疑問に思って顔を上げると、部屋の中には誰もいないのに段々と声が聞こえてくる。
何処からともなく、複数の色々な声が微かに響いて耳に届く。

中には懐かしさを感じる声もあった。
親しみを覚える声も――でも、何を言っているのかは分からなかった。

そして、それらの声の中にあるのではと、瞬時に期待を膨らませた"彼"の声は聞こえない。

装備品がなってない、とか。
そっちじゃない、と嗜める、あの不機嫌そうな声。

どうして――こんなにたくさんの声が聞こえるのに。
どうして、彼の声だけが、聞こえないの?

木霊する声の群れの中に、必死に探した。
けれど、どこにもいなかった。

代わりに……一つの声だけが、やけに強く、自分の胸の奥に届いてくる。

それも、何を言っているのかは分からなかった。
でも、それは……誰かを、何度も何度も――呼んでいる声だった。


誰を呼んでいるのだろう?
どうして呼ばれている人は、気付いてあげないの?


……可哀想だよ。
あんなに一生懸命呼んでるのに。



……そうだ。
私も――呼んでみようか。


胸に響くその一つの声に習って、私も、呼んでみようと思った。
そう、あの声のように。いつまでも呼び続けたい。
声を失っても、届かなくても。

『もういない』?

……でも必要なの。

『行っちゃ駄目』?

……そんなこと言われたって。


頭では分かっている。
分かったつもりだった。

けど、やっぱり……彼がいないなんて、考えられない。

唯一、甘えられる存在だった。
怒って叱ってくれる、あの声が。
迷った時、迷子になった時に――引っ張り戻してくれる、あの手が。

なくなってしまったら、私は……どうすればいいのか。


ぽろり、ぽろりと涙がこぼれる。
目をこすって、トミーは大きく息を吸い込んだ。


……その時、ふと気づく。

――呼ぶ名前の選択肢が、二つあることに。



――――もう一人は……誰?


―――さっきから私は、誰と話しているの?



気がつけば、周りの景色が、また“あの”不思議な青に塗り潰されていく。


――――来る!!!!


思った直後に、薄く青に染まりはじめた部屋のドアが、びきびきと音を立てて震え出した。
目を見開くトミーの前で、ドアをこじ開けようとする“手”が現れる。

……血にまみれた、男の手。


――そうだ。この青の夢に必ず現れる、あの男。

足がすくんで、動けない。


周囲に木霊する無数の声が、どんどん大きくなる。

その中でただ一人、身動きできずにいる――


――……





冷たいベッドの布団の中で、トミーは一人、泣いていた。


呼びたい名前を口にしないように。
嗚咽の漏れる口を、両手で、ぎゅっと塞いで。



<To be continued>

あとがき

第八話、『青と失名氏』でした。
ロエさんが自分の気持ちに気付いてしまった。
しかも、トミーとの会話中に。

いくつもの「気付けなかったこと」が、ありました。
ここで描かれた違和感が、いつか、きちんと名前を持つ日が来ます。